1079206 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ネイティブスピーカーも知らない!英語のヒ・ミ・ツ

ネイティブスピーカーも知らない!英語のヒ・ミ・ツ

冠詞6 実例でみる

冠詞の感覚をつかむために有効な学習として、とりあえず信頼できるネイティブが書いた(おそらく)間違いがないであろう文章をつぶさに検証してみるといいかもしれない。
名詞の前に定冠詞がある、不定冠詞がある、なにもない、それぞれの箇所について、どうしてそうなっているのか、考えてみるといいのだ。
以下は「赤ずきんちゃん」の英語版である。昔話といえど著作権はあると思うが、引用ってことで許してもらえ…ないかな…。とりあえずソースはこちら。著作権的に問題にされたら、以下の英文は削除してこちらを直接参照してもらうしかない。

Once upon a time, there was a little girl who lived in a village near the forest.
(昔々、森の近くのとある村に、小さな女の子がいました)

Once upon a timeはご存じのように昔話の冒頭の定番表現「昔々…」であるが、ここでtimeは「(それなりに区切りのある)時代」を指しているので、「とりあえず特定されていない、『とある』時代に」ということで a time でよい。a little girlは当然、初出の「とある女の子」。a villegeというのも、どこか特定はしないけれど、そこらにいくつかある村のうちのとあるひとつの初出。だがthe forestは、その地域や生活圏内にある森ということで初出でも一応限定されるのである。

Whenever, she went out, the little girl wore a red riding cloak, so everyone in the village called her Little Red Riding Hood.
(その少女は出かけるときはいつも、赤い乗馬用マントを身につけたので、その村の人は皆、彼女を「赤ずきんちゃん」と呼びました)

すでに話に出てきたそのlittle girlのことを指すので当然theがついている。the villageも同様。red riding cloak「赤い乗馬用マント」は、同じようなモノがいくつかあるうちのとあるひとつで初出、aがつく。

以下しばらく略す。

"Remember, go straight to Grandma's house," her mother cautioned. "Don't dawdle along the way and please don't talk to strangers! The woods are dangerous."
(「いいかい、まっすぐおばあちゃんのうちに行くんだよ」お母さんは言い聞かせました。
「途中でぐずぐずしちゃいけないよ。それに、知らない人とはしゃべらないでおくれ。森は危ないからね」)


strangersは不特定なのでtheはつかない。
ちょっと困ってしまうのは次のwoodsだが、調べてみると、森はthe wood と単数形にしている場合もあるし、the woodsと複数形で「ひとつの」森全体を示している場合もあるようだ。複数形になる場合は、woodは「木」と捉えられていて、その木が複数ある場所だからwoods=森になる。だがsがついているため動詞は複数形対応になる。これは少し前の項目で書いた映画=moving pictures→moviesに似た現象かもしれない。いずれにしても、生活圏内にある「あの」森なので、定冠詞をつける。the wayも、家からおばあちゃんの家に行く道と特定されている。

"Don't worry, mommy," said Little Red Riding Hood, "I'll be careful."
But when Little Red Riding Hood noticed some lovely flowers in the woods, she forgot her promise to her mother. She picked a few, watched the butterflies flit about for awhile, listened to the frogs croaking and then picked a few more.

(「心配ないわ、ママ。私、気をつけるわ」と赤ずきんちゃんは言いました。ところが、森で可愛い花を見つけたとき、赤ずきんちゃんはお母さんとの約束を忘れてしまいました。花をいくつか摘み、そのあたりをひらひら飛び回るチョウチョをしばらく眺め、カエルがゲコゲコ鳴いているのに耳を傾け、それからまたもういくつか花を摘みました。

buttefilesやfrogsにtheがついているのも、そのあたりにいるチョウチョやカエルということで、べつに、「どのチョウチョのこと?!」と突っ込まれる心配はない。不定のものとしてsome buttefliesなどとしてもいい。ただしここでチョウチョが1羽だけで、それをthe butterflyとしたら「どのチョウチョ?」と突っ込まれる。英語はそもそも複数か単数かをやたらと気にする言語であり、複数である場合と単数である場合の「特定感」の違いというのもまたそれなりに重要な要素だ。それについてはまた別項で取り上げる。が、ここでは、単数である場合はよけいに、「特定されているのかされていないのか」が問題になるということだけ言っておこう。複数の場合はtheをつけても「そこらに普通にいるチョウチョたち」でいいが、単数になると「あの、例の、特別のチョウチョ」という感覚が強くなってしまうのである。ちなみに、a fewは「2~3の」で、冠詞がないfewだけだと「ほとんど~ない」という意味になるのはご存じだろう。

Little Red Riding Hood was enjoying the warm summer day so much, that she didn't notice a dark shadow approaching out of the forest behind her...
(赤ずきんちゃんはその暖かい夏の日をとても楽しんでいて、背後の森からとある暗い影が近づいてきていることに気づきませんでした)

the warm summer dayも当然、そのおばあちゃんちに出かけた特定の日のことを指しているので問題ない。 そして、a dark shadow~ は、非常によく典型的に「a」のキモチを表している。つまり「アナタのまだ知らないなにかが、ほら、ここに出てきましたよ~」というキモチ。

Suddenly, the wolf appeared beside her.
(突然、そのオオカミが彼女の脇に現れ出ました)

ここにはちょっと違和感がある。いきなり出てきたオオカミだからa wolf となるのがしかるべきであろうかと思われる。だがたぶんここは、その前に出てきたa dark shadow がすでに「その」オオカミのことを暗示しているというキモチが強いのだ。ここのtheには「とある暗い影の主であるそのオオカミ」という意味があるのだと思う。

"What are you doing out here, little girl?" the wolf asked in a voice as friendly as he could muster.
(「ここで何をしているのかな、お嬢ちゃん」
オオカミは、ありったけの優しげな声で尋ねました)


ここにも違和感がある。a voiceだ。冠詞の問題というより、voiceが「可算名詞」であるということが日本人の感覚としては分からない。けれどvoiceはたしかにまごうかたなき可算名詞で、 a voiceとなったり複数形のvoicesとなったりしている。単数になる場合は「ひとりの人間(ここではオオカミだけど)の、とある調子の、一連の発声」を指しているらしい。このことについても後ほど加算・不可算をとりあげるときに考えてみたい。

また少し略す。先回りしたオオカミはおばあちゃんを呑み込んでしまった。
A few minutes later, Red Riding Hood knocked on the door. The wolf jumped into bed and pulled the covers over his nose. "Who is it?" he called in a cackly voice.
(数分後、赤ずきんちゃんがドアをノックしました。オオカミはベッドに飛び込み、鼻の上まで布団を引き上げました。「だれだね?」 彼はかん高い声で呼びかけました)

jumped into bedのbedにはtheがついてもおかしくないとは思う。だがとりあえずフェイクではあっても「寝込んでいる」(ふりをする)ためにベッドに行くなら冠詞はいらないことになる。the door やthe coversのtheはしつこいようだが前後関係から具体的に指しているものが明白だからである。以下この手のtheについては言及を省く。a cackly voice(かん高い声)にはまたaがついているが、さっきはこのオオカミはa friendly voiceを使っていたので、また別の声色なのだ。1人(1匹)でもいろいろなvoicesを持っているのである。

また少し省略。オオカミと赤ずきんちゃんのしばしのやり取りの後。

Almost too late, Little Red Riding Hood realized that the person in the bed was not her Grandmother, but a hungry wolf.
(ほとんど遅すぎたのですが、赤ずきんちゃんはそのベッドに寝ている人が、おばあちゃんではなく、お腹を空かせたオオカミだということにやっと気づきました)

the bedは、単に寝ている、ふせっている機能を問題にしているのではなく、「目の前のそのベッド」と特定しているキモチが強いのでtheが出てくる。
a hungry wolf ・・ここまでwolf にはずっとtheがついていたのに、ここで a ? 「初出のモノにはa、それ以降はthe」と機械的に覚えていると、「おかしい!」と思ってしまう。だがここでは、赤ずきんちゃんからの視点になって「自分がそれまで知らなかった存在が、出てきた!」というキモチなのである。

間一髪で難を逃れた赤ずきんちゃんは大声で呼ばわり、a woodsman「とある、きこり(ここでもwoodにはsがついている)」がやってきておばあちゃんを救いだし、オオカミをやっつけてしまった結末はご存じの通り。

*****

日頃四六時中こんなことを考えながらしゃべるなんてことは不可能だとは思う。疑問に思っても「そういうもんなんだ」ですませてしまうのも、まあ手っ取り早いのでそのほうがいい場合もあるだろう。だが、ときには「なぜ?」と追究してみるのも、少なくとも大人になってから外国語を学び始めた学習者にとっては益のあることと思う。何度もしつこく繰り返すが、基本のキモチが納得できて、その応用の仕方をいくつか知れば、応用範囲はどんどん広がるというものなのである。
ただどうしても「発想」からして違う部分(voiceのこととか)もあるので、そういうものはやはり個別に覚えるより仕方がないのだが(それとて、「同じような傾向のもの」を嗅ぎつけることは次第にできるようになるとは思う)。


前へ
次へ


© Rakuten Group, Inc.